◆高校時代の同期生が新年会ということで麻布のフグ屋に集った。メンバーの一
人は人気作家S(本名Nくん)。で、この日私たちが集まることは、当日の夕刊フジで彼が担当するエッセーコーナーに紹介された。
7名の男性と4名のオバサン(彼のエッセーによる)は、予想通りほとんど彼の独壇場となったその席をそれなりに楽しんでいたのだが、飲むほどに、酔うほどに「今幸せか、人生に悔いはないか、えっちゃん、どうだ?どうだ、ウッキー?」と女性陣への集中質問。
人生やり直しがきくわけでなし、この歳で今さら悩むに及ばずと考える女性たちは「はい、はい、幸せです。これまでの人生、後悔してません」と答える。「うそ、この歳になったら正直に話さなくちゃいけないよ」とNくん。彼は私たちの誰かに「今幸せじゃない。人生、後悔している」と答えてほしかったのだろうと思う。
◆彼はここに集ったメンバー全員の大事な友だち、であるのだけれど、彼のこれまでの人生は、誰一人として、かする程度の経験すらしていない人並みはずれた破天荒なもの。キャッシュカードを持てないその身の上は、どこを切り取っても小説そのもの。
紆余曲折を経て50歳でハードボイルド界の超新星としてデビューした彼の自伝的小説(週刊新潮に連載)は、若き日の主人公がマージャンや株で桁違いのお金を手に入れ、失い、人に与え、人から奪われるなかで、誰かわからない人に刺されたところ(生死不明)で終わっている。続編待望論は大きいようだが、今はまだ執筆未定とのこと。大人の男性を魅了してやまない作品の数々はヒットし、小さな本屋さんにもそれらは並ぶ。そう、彼は世間的には成功者になった。
◆次回作品は今2000枚を書き上げたところで、最後の6、70ページを残して苦闘しているとのこと。春には出るであろうその作品はすでに大物俳優主演での映画化も準備されているようだ。
彼はこの日もいつものように私に言った。「えっちゃん、そんな、草の根みたいなケチなことなんかやめちゃってもっと遊ばなくちゃ」。彼が本当は何を言いたいのか、私も、みんなもわかっている。「今幸せか、人生に悔いはないか」、私たちは彼の答えを知っている。次回作のなかで今度は彼の人生のどこに出会うのか、期待と不安を
持って待つことになる。