若い女性になりたい
組織は、その中にずっといる人だけでは活性化させれらません。外からの漂泊者が必要です。
「若者」「馬鹿者」「よそ者」。
よそから来た、若く、ときにばかばかしいことを言ったりしたりする人が、組織を活性化させていきます。
これについて鶴見和子は次のように書いています。
「運動の主体は、地域の定住者および一時漂泊者であるが、外来の漂泊者との交流と共同なしには、伝統の再創造または創造は触発されない」(「鶴見和子曼荼羅IX」1999、藤原書店)。
NGOがあるコミュニティで開発支援を行うときにこの役割を担うのが、コミュニティ・オーガナイザー(CO)です。コミュニティワーカーとか開発支援ワーカーなどとも呼ばれるCOは、開発支援の最前線。会社でいえば営業のようなもので、「南」のNGOでは、多くの若者はまずこれに従事します。
僕が今まで会った中でもっとも優秀なCOは、マニラ湾プロジェクトで2001年から2003年まで働いてくれたビビアンでした。
当時二十代半ばの彼女は海洋資源の専門家で、JICAでトレーニングを受けたこともあります。自ら潜って海の状況を調べ、しっかりしたレポートを元に計画を作ってくれました。
しかし、彼女の優秀さはそこではなくて、人々の懐に飛び込んでいく人なつこさでした。
漁師たちの家に行くと、さっさと入り込み、家族の一員であるかのように振る舞います。漁師たちが集まってラムを飲んでいると、当然のごとくその輪の中に入っておしゃべりをします。
COというよりは、少々お行儀の悪い娘のような振る舞いなのですが、それが男性がほとんどの漁師の間ではもっとも受け入れられる態度なのです。
うわさ話やら天気の話やらをしていたと思うと、いつの間にか漁獲の話になり、どう魚を守るかの話になり、最後は重要なミーティングの約束を取り付ける。
COにも様々な個性があるのですが、彼女の飛び込み方はとても魅力的で、かつ自然でした。
今なら僕は、結構いいCOになれると思います。
知らない人に話しかけるのは、若い頃は苦手だったけれど、今はむしろ得意です。相手のガードを下げながら話をする方法や、さりげなく話をまとめる方法、わざと外して気楽さを演出する方法、歳とともに自然に身についてきたと思っています。
僕自身、人と話をするのは大好きです。それも若い頃とはむしろ逆かもしれない。
ただ、そうしたものが身についた今、足りないのが若さ。
「若さ」に対する羨望は別にないし、若い頃よりは今の方がずっと居心地よく気楽なのだけれど、せっかく演じられるのにこれがないのは、とても残念です。
ドリー・パートンという歌手がいます。金髪で胸が大きく、南部なまりのはすっぱなしゃべり方。一般には、バカな金髪女(damn blonde)というイメージです。
しかし、現在63歳の彼女は、ヒット曲「ジョリーン」や、ホイットニー・ヒューストンが映画「ボディガード」の主題曲としてカバーした「オールウェイズ・ラブ・ユー」の作詞・作曲者という一面も持っています。
映画「9時から5時まで」や「マグノリアの花たち」では女優としてもヒットしました。
彼女自身の言葉によれば、バカでセクシーで元気、というのは彼女が意識的に自分で演じてきた「マンガのキャラ」なのです(CBS 60 minutes 2009/4/5)。
http://www.cbsnews.com/video/watch/?id=4920629n&tag=contentMain;contentBody
「9時から5時まで」で彼女が演じるセクレタリーは、奥に秘めた知性がちらりと感じられるかわいい女で、当時アメリカに住んでいた僕と妻の、地味だけれど大好きな映画になりました。
しかし、63歳になった今、セクシーさはともかくとして、「バカ」さはやはりむずかしいと思わざるを得ません。前例にとらわれず、理屈を顧みず、外の人々にどうとられるかを気にせずに「バカ」ができるのは、やはり「若さ」の特権です。
発言や態度には、自分の今の社会的な立場を考慮しないわけにはいかない。
それが、歳をとるということでしょう。
好きだったドリー・パートンの今を見て、ちょっと悲しくなった瞬間でした。
僕が、若い女性になりたい、と思うゆえんです。