『大山倍達正伝』新潮社
大山倍達と極真空手は、僕の世代には梶原一騎原作の『空手バカ一代』というマンガでおなじみです。
このマンガが『少年マガジン』で連載されていたのは僕が中学生のころで、僕はそれほど熱心に読んでいたわけではないけれど、ゴッドハンドと呼ばれた大山倍達という人はおそろしく強い人らしい、今までの寸止め空手と違って真剣勝負をする極真空手というのはまさに道を極めたすごいものらしい、という畏怖の念は持っていました。
多分、多くの人たちがなんとなく知っている「極真空手のすごさ」のかなりの部分は、ここからきているのではないでしょうか。
ところが、『大山倍達正伝』(小島一志・塚本佳子2006、新潮社)によれば、その中の多くのエピソードは、まったくの創作であるらしい。
そもそもゴッドハンドという呼び名自体が原作者の梶原一騎がつけたものだそうです。
ちまたに流布している一連の話、大山が拓大空手部で練習に励んだというのも、学徒出陣で航空隊に入り神風特攻隊員になったというのも、山ごもりの修行を重ねたのも、すべてフィクションであるそうです。
では、真実の大山倍達というのはどういう人だったのか?なぜこうしたフィクションがつくられていったのか?それを膨大な資料とインタビュー(帯によれば資料500点、証言者300人余)により解き明かしていったのがこの本です。
なぜ、それほどの作業が必要だったのか?それは、大山倍達自身が自分の出自を隠し、自身を伝説化するためにたくさんのフィクションを語ってきたからです。
大山が語ったことに、他の人が書き加えた話が積み重なって、非常にたくさんの伝説ができてしまっている、それをひとつひとつはがしていく、気の遠くなるほどの作業の末にできたのが、この600ページにわたる「正伝」なのでした。
著者の小島と塚本はもともと大山倍達に近い人たちですが、そうでありながらあらゆる情報を検討して冷静に事実を探っていくその真摯な態度は、研究者の原点として見習うべきものがあります。
僕は学生時代に読んだ『イエスとその時代』(荒井献1974、岩波新書青版)を思い出しました。『イエスとその時代』は聖書そのものの中からイエスの真実を読み解いていくというエキサイティングな本でしたが、『大山倍達正伝』もそのエキサイティングさにおいてこれに匹敵する面白さでした。
コメント
うちの職場の同僚も読んだそうです。僕もいつか読んでみたいと思います。
投稿者: 智広63 | 2009年05月12日 23:40