サンタメルセデス・インゴの家
この家は、サンタメルセデスの村はずれに建つ家。なんと住人であるインゴの手作り。
インゴは、54歳。温厚そうな、落ち着いた表情をした男性だ。新しくはないがきれいに洗濯されたポロシャツからのぞく腕は筋肉質で、贅肉のない体をしている。
同居しているマーリンとインゴは、出会ったとき、マニラの大きな邸宅で働いていた。インゴはドライバー、マーリンは洗濯係だった。そこで恋に落ちて、二人で別の海沿いの町で住むようになったのが15年前だ。それからもいろいろな仕事をしてきたが、町の生活がいやになり、2年前この村に移り住んだ。親戚がこの村の有力者の家で家事手伝いをしていたので、それが縁だという。集落の奥の方にも土地はあるのだが、二人はむしろ、こちらの海沿いの場所を選んだ。
インゴは大工の技術を持っているので、家もあずまやも、全部自分で建てた。材木も、山の木を自分で切り出したのだそうだ。もちろん電気はない。水道もない。裏山の方に水のわき出ているところがあるので、水はそこから汲んでくる。燃料は木炭で、インゴは今、主にその木炭つくりで生活している。
マーリンの方は、小さな畑でできる野菜や庭にあるマンゴーの実などを村で売る。
家の中には、これも自分で作ったという、シンプルだけれど座り心地の良さそうな大きなイスが2つ。木の皮と巧みに使った仕切りと、竹をつかった大きめのすだれのようなもので、家の中は整然と整理されている。その隙間から、海から反射した光がはらはらと流れ込む。
豊かな暮らしであるわけはない。木炭を売り、マンゴーを売って稼げる額はたかがしれている。日本の物価とは比べられないにしても、生活必需品を買えば、トントンの生活。
今のところ無頓着に木を切っているけれど、それが再生不可能な速度にまで山を痩せさせることにはならないか、という疑問もある。この生活が10年続けられるだろうか?病気になったらどうだろうか?実は上院議員の土地であるこの場所から、ある日突然出て行けと言われたら、どうだろうか。
しかし、それでもやはり、思ってしまう。これは、とても「豊かな生活」なのではないだろうか。