草の根援助運動2007年第一回学習会記録

プロジェクト評価〜「ジェンダーと開発」フィリピンの取り組み〜

 

日時:2007年4月21日 午後7時〜9時
場所:かながわ県民活動サポートセンター(横浜市

講師:田中博氏(参加型評価ファシリテータ、ヒマラヤ保全協会理事)
    草の根援助運動プロジェクト評価チーム(川崎泉美・古澤めい・山中悦子)

コメンテーター:佐野麻由子氏(立教大学平和・コミュニティ研究機構 リサーチアシスタント)

司会:山中悦子(草の根援助運動)

 

T.PRRMとの関係について(山中)

 草の根援助運動(P2)は,フィリピンのパートナーNGOであるPRRMとともに2002年〜2005年にヌエバ・エシハ州において,地域開発の中にジェンダーの視点を取り入れることを目的とした「ジェンダーと開発(GAD)プロジェクト」(以下GADプロジェクト)を実施した。PRRMは,1952年にフィリピンの社会構造改革を目ざして設立されたNGOである。マルコス政権下では一時活動休止をやむなくされたが,アキノ政権発足とともに活動を再開した。活動が最も盛んだった1990年代前半には500人ものスタッフを抱えたこともあるフィリピン国内最大級の開発NGOである。P2は設立以来今までの16年間で,PRRMが行なう持続可能な総合地域開発プログラム(SRDDP)を中心に案件にして50件,総額で6,000万円に及ぶ援助を行なってきた。

 PRRMは,スタートからジェンダーの問題を大切にしてきた。GADプロジェクトでは,ジェンダーの問題を中心にすえている。そうしたGADプロジェクトをP2は,この1月,田中さん,佐野さんの助力を得てプロジェクト評価をした。その内容を今日の学習会で見ていきたい。

 

U.参加型評価とは何か(田中)

 ヒマラヤ保全協会で11年間活動してきた。ネパールで森林保全に関わる中で評価の大切さを感じてきたので,現在英国サセックス大学国際開発学研究所で参加型評価を研究している。今回のGADプロジェクト評価のことも踏まえて論文を執筆中であるが,今後は参加型評価ファシリテーターとしても活動をしていきたい。

(参加者に対して)どうして評価の問題に関心があるか?

(参加者の発言)→@仕事でプロジェクトを扱ったが,自己評価も客観的評価も難しかった。Aイベント交流等の事業をしたことがあるが,外部評価がない問題を感じていた。BODAプロジェクトにかかわったことがあり,評価は大切と思うがなかなかうまく行かなかった,など

 プロジェクト評価とは何か。モニタリングはプロジェクトを行っていくのにあたり,計画の趣旨に沿って活動を具体化し活動を修正していくことを言う。プロジェクト評価は,時期を置いてプロジェクトがもたらしている効果や要因等を見てプロジェクトに対して一定の評価を下すものを言う。

 日本では,ODAに関しては,1990年代,援助の質が問われるようになり,PCM等の管理手法を使い評価が行われるようになった。同じ頃NGOは,評価は怖いなと感じているところが多かった。しかし,支援者に報告をする必要から無自覚のうちに評価をしていた団体もあった。最近では活動の中に評価を盛り込む団体も出て来た。しかし,評価には時間や資金人材が必要で,そんな資源があったらプロジェクトにまわしたいと思っているところも多いだろう。

 評価には従来型と参加型が考えられる。従来型は外部専門家が事前に定めた指標を使い定量的データを下に成功か失敗かを判断説明していく。参加型は,ファシリテーター,スタッフ,住民等プロジェクト関係者が協力して行っていく。その過程で住民自身が指標を決め,自己評価を中心に行っていく。分析は定量的であるとともに定性的にならざるを得ない。参加型では自分自身を振り返り、エンパワメントすることが大切である。

 地域に橋を作る,学校を作る等ならば,従来型の評価が有効と思われる。しかし,住民が森林を保全する等の住民参加のプロジェクトの場合は,従来型では評価しきれないことが多く,参加型評価の方が適していると考えている。ヌエバ・エシハで1月に行った参加型評価の報告をX.で行なう。

 

V.ヌエバ・エシハ州北部における「ジェンダーと開発」プロジェクトのユニークさを理解するために(佐野)

 GADとは,「開発の全ての段階で,女性を能動主体として積極的参加の確保に配慮して開発を進める。」というアプローチである。GADは,その前にあったWIDを起点にしている。50年代から60年代の援助が女性を食糧支援や家族計画の受益者として想定していたため,女性という人的資源を開花させることができなかった。WIDはそれに対する批判から70年代に登場した研究・実践領域であり,女性に教育や雇用を提供し積極的に開発の過程に統合し、開発進展を効率化していこうというものである。しかし,WIDは,妻,母という伝統的な女性の役割を前提にしていたため,性役割分業を固定化する傾向があった。そこでその点を改善しようという目的で80年代に提案されたのがGADである。両者を比較すると志向性において,WIDが非生産的な状況に置かれている女性を開発過程に統合することに焦点が当てられジェンダー関係は不問にされているのに対して,GADではジェンダー関係を不問にしていては女性の従属性は改善できないと考えられる。さらに,エスニティやカーストの問題においても権力構造の変革を要求する。WIDは,女性を性役割分業内で位置づけるが,GADは,ジェンダー,階級,カースト,民族などの権力関係も視野に入れ,女性に対する抑圧を変革していくのとともにカースト等他の社会関係の問題についても変革を目指す。

 GADを活かして開発過程でジェンダーから生ずる不公正や不平等を是正するにはジェンダー・プランニングが必要である。ジェンダー・プランニングとは,目的を実現するために,政策(何をするか),計画(実現方法),実施の仕組みを一体とする計画過程を指す。ジェンダー・プランニングの過程は,1.問題分析,2.実現法の検討,3.モニタリング評価からなる。それぞれの過程で女性だけでなく男性の積極的参加が必須となる。

 GADアプローチに基づく政策を実現していくと現実の権力関係の問題性を問うことになり既得権益をもつ人々の脅威になることが予想される。そこで国際援助機関などは,WIDを起点にGADを部分的に実施したりして男女関係の変革を目指すところが多い。

 本プロジェクト(GADプロジェクト)を理解するにあたっては,何を意図してどのようにプロジェクトが開始されたのかをみることがポイントとなる。このプロジェクトの面白さは、GADプロジェクトを開始するにあたって男女関係の変革を真正面に掲げた点にある。このプロジェクトでは、国民の多くがカトリック教徒でありかつ保守的な考えが残る農村で、家族計画の推進を起点に男女関係の変革を目指すという研修プロジェクトが実施された。当初、強力なリーダーの下で住民を“参加させる”というトップダウン形式でプロジェクトが開始されたが、実施の過程では住民(男女)との協働でプロジェクトが遂行され、評価においては住民(男女)が参加し振り返りがなされた。以上の点が、本プロジェクトのユニークさを理解する上でのポイントとなるのではないか。

 

W.ヌエバ・エシハ州北部におけるジェンダーと開発プロジェクト(GAD)の内容(古澤)

 ヌエバ・エシハ州は関東平野と同じくらいの面積を持つ平野にあり,稲作中心の穀倉地帯である。PRRM1952年に活動を開始したフィールドでもある。PRRMが実施したSRDDPによって農民達は水田により持続可能な稲作をすることができるようになり,自分達で米を流通させることができるルートを作ることができるようになった。また,PRRMは住民グループによる,小規模金融,保険衛生などのプロジェクトを実現させている。しかし,GADプロジェクト実施以前は,農業関係は男性中心に,保健衛生は女性中心になりがちであったし,家庭内の男女関係は旧来どおり,女性が従属的であった。持続可能な地域開発をさらに進めるためにはジェンダーの問題に踏み込むことが必要になり,GADプロジェクトが提案された。

 なぜヌエバ・エシハかというと、PRRMにとってここがこれまで最も豊富な活動実績を誇る地域であると同時に、フィリピンの中でも特に男性優位の社会であったからである。

プロジェクト期間は、20024月から20053月の3年間、対象地域は、ヌエバ・エシハ州北部の五つの市と町、予算は年間50万円であった。プロジェクトの実施者は,PRRMとヌエバ・エシハ農民組織連合、P2であり,受益者はヌエバ・エシハ農民組織連合に属している500人ほどである。その頃プロジェクトを通じてジェンダートレーニングを受けたのは300人ほどであるが,これは、例えば、ある人口600人の村で25人に過ぎないので,村民の意識を変革していくためにはもっと大勢の参加が必要とされている。

 このプロジェクトの究極目標は持続可能な開発を更に進めることにある。プロジェクト中にモニタリングは随時実施したが,プロジェクト実施後に体系的なプロジェクト評価は実施できなかった。ただ,PRRMとしては今回のGADプロジェクトを肯定的に評価して,2006年以降3年間,同様のGADプロジェクトを14州に広げ実施している。

 GADプロジェクトの活動内容には4つの柱がある。

@       ジェンダーリーダーの育成。女性、夫婦を対象にしたジェンダー研修を通じて、ジェンダーリーダーを育成していく。研修のトレーニング・モジュールは確立されている。まず,自分自身を知ること,カップルがお互いに子供時代から今までのことを語り合う,フィリピンの歴史の中での女性のあり方を学ぶ,カウンセリングのトレーニングを受ける,などにより,人間関係の作り方を学んだり,地域の中での政策提言をしたり,女性,子どもに対するバイオレンスに関する法律を学んだりする。そして,学んだことを地域に広げていく。

A       ジェンダー視点に基づいたプログラムを計画,実施,モニタリングしていく。たとえば,運営組織に置いて中心的役割を果たす女性の数を増やす。これについては農民組織連合,女性フォーラムといった上部団体では成果を見ているが,町村のレヴェルで成果を挙げるのはまだ難しい。

B       リプロダクティブ・ヘルスに対する男性の参加促進。男性による避妊法採用促進のキャンペーンをする。コンドドームの使用や精管切徐手術の促進。

C       ジェンダーに配慮した開発が行なえるように自治体へのアドボカシー(政策提言)を行なう。フィリピンの地方自治体では総予算のうち5%をGAD関連に使うのが目標とされている。しかし,現状では目標どおりになっていない。

 

 GADプロジェクトはPRRMの要請に対してP2がこたえる形で実施されたプロジェクトである。

 本プロジェクトは、参加者のジェンダー意識の変化を促すものであるが、意識の変化を見るのは難しい。現地調査前には、果たしてプロジェクトの成果を見ることができるのかという不安があった。

しかし,一月の現地調査を通して、参加者の意識や行動の変化が見え、またプロジェクト設計がよく考えられ、プロジェクト活動内容が相互に連関していることが分かり、P2のプロジェクト担当者として、本プロジェクトに対する理解が深まった。

 

X.評価結果報告(田中)

1.現地調査に至るまで,評価設計等

 一月の調査ではKJ法を使ったワークショップなどによりGADプロジェクトを参加型で評価してみた。GADに関わるプロジェクトを従来型に外部から評価して,例えば村の男性が保守的であるという結論を出したところで事態の改善につながらない。参加型評価の方法を取ることによって,現地だけでなくP2の人たちの気づきやエンパワメントになった方が好ましい。

 今回の評価に当たっては,フィリピン班から,山中,古澤,川崎が参加し,外部からのファシリテーターである田中,アドバイザーである佐野を加えて,評価チームを構成した。GADプロジェクトの主な関係者は次の4者である。@支援者として出資者の山形退女教,A実施団体はP2フィリピン班,B現地実施団体としてPRRM,B受益者としてKALIKASANメンバー。もちろん全部が評価に参加できるのが理想であるが実現するのは人手,予算の関係でとても難しい。

 評価チームは,まず五つの評価目標を設定した。@プロジェクトの実態を知る。A住民意識の変化を知る。B過去のプロジェクトの教訓を抽出する。C評価をこれからの拡大プロジェクトに生かしていく。DP2の評価基準を改善していく。

 評価チームが設定した評価目標は,フィリピン班に提案され,議論し決定された。さらに現地実施団体であるPRRMに提案され合意された。しかし,支援者である退女教及び受益者との事前の合意は形成できなかった。

 次に評価チームは評価対象内容についての議論を行った。NGOプロジェクトは一般的に全体把握が難しいものである。GADプロジェクトには別表のプロジェクト設計図がある。活動内容を見ていくと1,2年目と3年目の間に大きな飛躍がある。3年目の活動内容に活動を評価する上で手がかりがあるかもしれないと思われた。

 それから,プロジェクト評価ためのデータ収集の方法について検討した。現地の人に聞き取りを行うことにより,実態を知ることを決めた。聞き取りの方法はビデオ撮影をしたインタビューのほか,簡易KJ法などとした。聞き取りの対象はPOのリーダー,バランガイの評議委員,村の非メンバー等である。

 

2. 現地調査(2007年,1/14から1/20

 @POのリーダーが参加してグループディスカッションを行った。リーダーレヴェルで言うと研修を通しリーダー達は変化している。男性達は男女平等を意識し女性たちの仕事を手伝うようになってきている。リーダー達のレヴェルでも,男性達が避妊法の中で精管切徐の問題を過剰に意識してしまう等の傾向はあった。

 

 Aジェンダーセンティネル(男女問題の相談役,女性6人,男性1人)に対して,GADプロジェクトの中で何が重要であったか,簡易KJ法による評価を試みた。内容は,別表「GADプロジェクトによってどのような変化があったか」にまとめられた。

 トレーニングによって新しい法律知識を学ぶことができ,村人に対して自分自身アクティブに援助ができるようになった。

 アドボカシーにより,ジェンダーセンティネル自身が,地域のモデルになり,ジェンダーリーダーとして認められていく。男女の権利を学び,結果として家族が変わっていく。地域が活性化していく。

 というように様々な変化が確認された。GADプロジェクトは,トレーニングを農村開発プログラムに取込んでいくことを目的としている。そのためにジェンダーセンティネル自身が個人として変化していくことがまず必要であり,それが社会に影響していかなくてはならないのであるが,このワークショップの結果意識の変化がプロジェクトの中で機能していることが確認された。

 

 BPOリーダー・カップルへのインタビュー

研修のプログラムは大変よく構成されている。参加者個人 (特に男性) の意識が変わり,以前より家事分担などするようになった。女性の権利に対する意識も高まった。

 

 Cパランガイ行政評議委員へのインタビュー

フィリピンの地方行政では,総予算の5%をGAD関係に使うことになっている。地方行政とNGOおよび地方住民との関係は良好なのだが,5%の予算をGAD関係に追加っていこうという具体的取組名まだ不十分である。

 

 D非POメンバー(プロジェクトには参加していない村の人々)へのインタビュー

男性が農業に従事し女性が家事を勤めるのがハッピーだとか,家族計画を考えたことがないとか,避妊は女性のみがピルを飲んで行なうべきだとかという意見を聞き取った。プロジェクトに参加している人とそうでない人との違いが著しい。

 

3.今回の評価結果の要点

 @GADプロジェクトは目標を達成したか

 プロジェクトは概ね計画通りに行われた。現在までのところジェンダーの視点を取り入れることで地域開発を効率的に実施できる段階に達していない。しかし,目標を達成するための下地は作りつつある。

 AGADプログラムは住民のニーズに基づいていたか

 住民のニーズというより,現地NGOPOの経験からGADの視点が求められた。研修が参加者の意識に効果的であったことが分かった。ただ,男性のリプロダクティブ・ヘルス参加は強く印象を残したが、精管切徐に関しては,これだけがショック療法的に男性参加者の意識に残ってしまったという弊害があった。

 B住民の参加

 リーダーを中心に活発に参加している。しかし,地域社会全体から見ると研修参加者はまだまだ一部に限られている。

 C他の分野や近隣に対して影響を与えているか

 参加者の意識変化が家族や周辺地域に影響を与えつつある。また,本プロジェクトの教訓を生かして同様のGADプロジェクトは2006年からヌエバ・エシハ14州全体で開始された。

 D援助の要らない生活に踏み出しているか。

 研修を受けたPOリーダーやメンバーには意識の変化が見られる。

 Eジェンダーの視点

 ジェンダーの視点に立ち農村開発を統合するプロジェクトであり,女性だけでなく男性の参加も視野に入れた活動であった。研修を受けた女性が自身をもち男性はそれを理解して協力していく等の姿勢が見られた。保守的なフィリピン農村社会の実情を考えると進歩的な活動であるし,政府間援助であるJICAなどでは取り扱いにくいプロジェクトであるかもしれない。

 

4.教訓と提言

 研修モジュールが大変有効である。拡大プロジェクトの中でも更なる活用が期待される。また,日本などでもジェンダー問題はまだまだ深刻なので,内容を調整して応用することも考えられる。

「リプロダクティブ・ヘルスへの男性参加促進」は必要なプロセスである。しかし,精管切徐の問題が出て来るとこの点だけが刺激として残り計画全体の理解がゆがめられる可能性があるので,要検討である。

現段階では,プロジェクトの活動が地域に浸透し変化を与えるところにまで至っていない。そうした段階に至るまでGADプロジェクトは時間をかけて取組む必要がある。

 バランガイのGAD予算5%を有効活用すべきである。そのためにバランガイへの働きかけを強めることが望ましい。

 P2に対して,PRRMやカリカサンは有能なNGOPOであり,今後も関係を大切にしていくべきである。支援者である山形退女教への積極的説明責任を勤めるべきである。また,今後,プロジェクト立案時に立案→実施→評価→立案といったプロジェクトサイクルの確立を目指すべきである。

 

5.評価のまとめのフィードバック

 現地のヌエバ・エシハとマニラの本部にすぐ評価結果の共有をした。それぞれ自分達の実践についての認識が確認されたが,住民参加はまだ低いと返事があった。また,早くまとまったレポートを手にしたいとの事であった。

 

6.従来型の評価に対して参加型評価の長所と課題

 長所〜関係者がプロジェクトの内容や成果を学びながら,学んだ内容を共有することができる。それを通じて関係者が情報交換することができるし,参加者のやる気を引き出すこともできる。(エンパワメント)

 課題〜議論・評価に時間、人手,費用がかかる。関係者全員の参加は現実的には不可能で、実施に関してはどこかで妥協をせざるを得ない。

  評価者の立場が微妙である。外部にとどまっていては、深く理解ができないが、組織の内部に入りこむと客観的に見にくくなるし,場合によっては馴れ合いの評価に陥るかの可能性もある。

(無断転載はご遠慮ください 草の根援助運動2007)